Book : 「100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著 君のために選んだ1冊」

2月の16日(木)17日(金)の2日間で開催される Developer Summit 2012 に合わせて、多くのスピーカーを含む100人のプロフェッショナルから、1冊ずつ様々な書籍を紹介している100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著 君のために選んだ1冊という書籍の執筆に参加させて頂きました。

なんと、出版元の翔泳社様のご厚意で、書籍に出ている内容を著者のBLOGにて掲載してもよし、ということになっておりますので、本 BLOG にも掲載させていただきたいと思います。


「アイデアを発想しないヒトに、もう対価は払われません。」

- 東 賢が、顧客のためのソフトウェア開発に関わる全てのプロフェッショナルに贈りたい1冊 -

イノベーションの神話 Scott Berkun 著、村上 雅章 訳、オライリー・ジャパン(2007)」

「若い頃からソフトウェアの世界に可能性を感じていた私は、必ずヒトの働き方や生活を変えることが出来る!と希望を大きく膨らませてこの業界に身を置く決断をした学生の一人でした。大きくはなくとも、私の「提案」が何を変えられるかもしれない、と考えていたいのです。しかし残念なことに、特に受託開発をやっている方とお話しすると「最終的には顧客がすべての決定権を持っているため、提案しても受け入れられない」というようなご意見を多く聞きます。随分と受身で、希望に満ちた世界とは少し違うようです。顧客が最終的な決定権を持っていることについては、資本主義社会に生きる以上疑問の余地はありませんが、同時に顧客は、その道のプロフェッショナルに対して、暗がりを明るく照らすような的確な助言や、困難な課題に対するアイデアを求めているに違いありません。例えば外食の時、なんのひねりもない既製品を喜んで食べたいと思うことは、普通ないでしょう。自分では作ることができない/作ることはできても時間のかかってしまう何かに対して、プロフェッショナルが「仕事」をした成果を求めているはずです。

一方、ソフトウェアの世界には「既製品」にあたる選択可能な代替品は存在しない、全てが注文建築である、という意見があります。しかし、注文建築でも、壁紙などの資材を一から作ることは殆ど無く、限られた資源のなかでどのように既製品を組み合わせて独創性を生み出す、あるいは、一握りの本当にどこにもない部分を作り出す余裕を生み出すことに集中することがほとんどです。これこそ、資源が限られた中でのアイデアの勝負です。

『イノベーションの神話』は、独創的なイノベーションを生み出すことが、特殊な限られた人間だけが持つ奇跡的な才能であるかのような神話=迷信を、丁寧に、ウィットに満ちた文面でゆっくりと崩していきます。イノベーションと聞くとスティーブ・ジョブズやレオナルド・ダ・ヴィンチが成し遂げたような偉業をイメージしてしまいますが、もっと身近に「発想」「アイデア」「解決策の提案」と読み替えても間違いはないと思います。イノベーションに関わる神話を壊していきながら本書は、イノベーションの種/待ち受ける難関/そこへ至る道/何故否定されたり採用されたりするか/優れたアイデアの探し方/マネジメントとイノベーターの摩擦/意思決定者に影響を与えるファクター/問題との向き合い方など、発案のキーポイントに関するヒントをたくさん与えてくれます。

弊社が提供しているような開発生産性を高めるツールがあったり、これまで高価だったインフラがクラウドという形で提供されるようになったりすることで、「これまで同様にソフトウェアを粛々と設計し、開発する」という行為だけでは、顧客に対して価値を提供することが難しくなっています。コストをオフショアと単純に比較されたりするのではなく、どのようにして広い意味での提案=付加価値を、開発組織がアプリケーションという「応用」で提供することが出来るのかが、これまで以上に求められるようになっています。

私たちと私たちの顧客の前には、タッチユーザーインターフェイスの拡大やマルチデバイス需要の拡大など、多くの技術的不連続面も立ちはだかっています。そんな時だからこそ、提案することを辞めず、価値提案をすることをあきらめないでいただきたいのです。私が現職で働いているのは、多くの方が発想をしやすい環境/時間を作り出すためのお手伝いをしたいと思っているからにほかなりません。そのためのツールを提供し、ワークショップでは発想のベースともなるブレインストーミングなどの練習も皆さんと行なっています。この点で、著者がこの書籍を執筆した意図に強く賛同しています。

ストアなどの流通形態を通じた海外からのソフトウェアの流入などで、狭い日本も「狭さを理由にできない事態」に直面するはずです。だからこそ、小粒かもしれませんが、ピリッとするようなアイデアで価値を提供し続けるために、是非本書から多くのヒントを手に入れてください。顧客ためのみならず私たち自身のためにも、アイデアで、この業界を一緒に盛り上げましょう!」


いかがでしたでしょうか。「イノベーションの神話」は今手にとって見ても非常に良い本だと思いますので、是非読んでみてください。紙面の都合で書ききれなかったことも多いのですが、昨今の事情も踏まえて加筆を予定しております。その際には、そちらも再度公開させて頂きます。

既にデブサミは満員御礼の状態と伺っておりますが、会場ではこの書籍の販売も行われるようです。恥ずかしい気もしますが、サインなどもさせていただくことになっております。会場にお越しの方は、是非お声がけください。それでは、デブサミ会場でお会いできるのを楽しみにしております!

[books]Hackers and Painters : Big Ideas from the computer age


デザインとデベロップメントの関係に言及しているという意味でも非常に有名な本ですが、著者自身ハッカー(もちろん、悪い意味ではなく)でありながら成功している経営者であり、美術学校で絵画すら学んでいます。実存の成功者から語られる「技術者の気構え」はその書き口以上に重く、成功のために立ち止まることを許しません。「ものづくり」を愛し、極めようとする技術者の特性はいまさら私が書くようなものではありませんが、よく物語に出てくるような「田舎で隠遁生活を営む孤高の鍛冶屋」であっても日々の生活の糧のために鍬を作らなければならないし、ユーザーを獲得する必要があります。別のパターンで画家のようにパトロンを見つけるという手もありますが、いずれにしても「一流であること」が先に求められることは間違いなく、技術者が自らを先に一流であると位置づけて(生活を含めた)戦略を立てることにはリスクがあると思われます。色々書きましたが、読んで噛み締められる一冊だと思いました。特に現場で戦っている技術者にお勧めです。

[books]アートオブプロジェクトマネジメント


著者はマイクロソフトでInternet Explorerなどの大規模なプロジェクトをリードしていた人です。書籍の内容については細かい手法が書いてある訳ではなく、心構えや人間系のコミュニケーションの話などが中心になっています。400ページ超の規模ですから読み切るのには一苦労であありますが、「優れたビジョンを記述する」「アイデアの源」といった章については、エクスペリエンスデザインに通じる事も多く、お勧めしたい所です。(この2つの章だけで50ページあります!)当たり前のように書かれているものの実行になかなかいたらないものと感じたのは「3分の1ルール」というものです。すなわち、設計/開発(おそらくTDDレベルのテストを含む)/テストを3分割の重み付けで考えようというものです。現実的に品質を高めようと考えた場合には最初と最後にどれだけ時間を割り当てられるかが大事になりますね。

[Books]MY JOB WENT TO INDIA -オフショア時代のソフトウェア開発者サバイバルガイド–


久しぶりに書籍を紹介します。タイトルからして非常に刺激的ですが、MY JOB WENT TO INDIAです。
既に過去形であるあたりが非常にシビアですね!刺激的なタイトルとは裏腹に内容は大変まじめな内容であり、開発者がこれからの時代に心がけておくべきマインドの話をしています。個人的にはこれから開発者はビジネスを無視することは出来ないという流れが本の中にあることです。テクニカルスキルであってもビジネスであっても、貪欲に、自ら学ぶ姿勢を忘れずに他者との差別化を図っていきましょう、というメッセージでした。特に開発の現場にいる方全員に読んでほしい本ですね。

[books]ユーザビリティエンジニアリング—ユーザ調査とユーザビリティ評価

ユーザビリティエンジニアリング—ユーザ調査とユーザビリティ評価実践テクニック

この分野では定番とも言える一冊ではありますが、同僚に「ペルソナを作る時に良い参考書はありますか」と振られたので本棚をひっくり返してみたところ、やはりこれかなと思いまして紹介したいと思います。問題のペルソナに関する記述はもちろん、参考書籍として引用しているものを見ても著者がソフトウェアエンジニアリングに明るいことが分かります。もう一度真剣に読み返してみると、master/apprenticeアプローチなど素晴らしいメタファーも多く大変参考になりました。ユーザビリティそのものに興味がある方だけでなく、ソフトウェア開発に関わる全ての人にお勧めしたいです。

[books]アジャイルソフトウェアマネジメント

アジャイルソフトウェアマネジメント
TechEdでただでもらった本なのでしっかりと目を通していませんでしたが、ソフトウェア開発と経営管理というある視点では相反する要素を持った両者を総合的に理解しようとしている良書でした。有名な制約条件理論など生産管理上の概念がソフトウェア開発においてどのように統合できるか、視点を提供しています。自分が純粋な意味で開発者でなくなった時点で強く感じていることですが、developer happyのみを追求しても実はdeveloper happyは訪れないと考えています。ビジネスモデルというのはそんなに単純でないのが難しいところです。